基調講演

大西 圭 先生(九州工業大学大学院 情報工学研究院 電子情報工学研究系 准教授)

講演題目:ネットワーク上での人間ベース進化計算実行による人間組織の問題解決

講演概要:

 本講演では,ソフトコンピューティングの代表的な手法の一つである進化計算の一形態である「人間ベース進化計算」を人間社会の問題解決に応用する我々の研究を紹介する.

 進化計算は,生物の遺伝と進化にヒントを得た計算の枠組みであり,近年最適化手法として様々な分野で有用性が示されている.進化計算に共通する核となる手続きは,自然選択にヒントを得た選択演算,遺伝にヒントを得た遺伝子組換え・突然変異演算である.これら選択演算と遺伝子組換え・突然変異演算の2つを誰が実行するか,という視点で進化計算を捉えると,進化計算はマルチエージェントシステムと見なすことができる.そして,それら2つを計算機が実行するものが通常の進化計算であり,選択演算を人間が実行し遺伝子組換え・突然変異演算を計算機が実行するものがインタラクティブ進化計算である.さらに,それら2つともを人間が実行するものが「人間ベース進化計算」である.

 人間ベース進化計算は,複数人で問題の解候補を作成(遺伝子組換え・突然変異演算)し,複数人で作成された解候補を評価・選択(選択演算)する.したがって,人々がこれらの手続きを実行する「場」が必要である.この実行場をどのように設定し,その場でどのように生成された解候補を人々の間で共有するかが,人間ベース進化計算により創造的に問題解決できるかどうかにかかわる.ネットワークを実行場として利用すれば,遠隔の人々が協力して進化的に問題解決することが可能である.

 そこで我々の研究室では,問題解決の実行場としてWebを利用する「集中型の人間ベース進化計算」と,問題の解決場としてアドホックネットワークを利用する「分散型の人間ベース進化計算」を研究の対象としている.

 集中型の人間ベース進化計算の研究では,インターネット上に存在する膨大なデータ(オープンデータやビッグデータ)の利活用法を人々が考案するための人間ベース進化計算実行システムをWeb上に構築し,被験者実験によりその有用性を検証している.本講演ではその研究について紹介する.

 分散型の人間ベース進化計算の研究では,街中や駅などで人々がスマートフォンにより近くの人々とアドホックネットワークを作り,その上で問題の解候補の作成・共有を行うことを想定したシミュレーションを実施している.分散型においては集中型におけるWebサーバのように問題の解候補を集中管理する仕組みがないため,他人が作った解候補の中で何を選択的に受け取って参照するかがポイントになる.本講演ではその研究について紹介する.