基調講演
我妻 広明 先生(九州工業大学 大学院生命体工学研究科 人間知能システム工学専攻 教授 )
講演題目:
人と機械が場を共有する課題における危険予知とその解消:論理知識型人工知能によるアプローチ
講演概要:
近年、自動運転や人と共同作業をするロボットの社会実装に向けた多くの技術的課題が解決しつつあり、その一部は、商業化へと着実な道を歩んでいる。自動車の運転に必要な能力として、「認知・判断・操作」の三要素が挙げられる。認知と操作(あるいは制御)は、機械学習などのデータ駆動型人工知能活用の観点から、進歩が目覚ましい。一方、判断の能力については、ビックデータを前提とした統計モデルや生成モデルへの大きな期待があるものの、判断の根拠がブラックボックス化しやすい問題や、人間の熟練判断との一致や照合が自明でないことから、判断を機械に任せて良いかどうかの指針が問われている。我々はこれまで、脳から着想を得た知的システム(Brain-Inspired Systems)の設計について、脳、身体、社会から議論を進めてきた。特に、脳が有する計算論の異なる複数の記憶回路に着目し、無意識の記憶回路であるデータ駆動型に対し、意識的に記憶を辿ることができるエピソード記憶の重要性に着目し、親和性のある実装方法の一つとして、述語論理を基盤とするセマンティックWeb技術の活用に力を入れてきた。具体的には、オントロジーと呼ばれる知識の体系的記述による熟練知識のデータベース(オントロジーDB)構築と、実時間問題への適用である。
本講演では、オントロジーDBの概略を解説し、どのように人間の熟練知の体系化が可能となるか、つまり暗黙知から顕在(形式)知への転換あるいは昇華が可能になるかの議論を進め、具体的な例として、異変についての外界情報が明確に得られない場合でも、知識からあり得る状況を事前想定する自動運転車の「かもしれない」運転や、工場や圃場などで人と共同作業するロボットがヒューマンエラーを許容して課題達成する「リカバリ」自動計画などの研究事例の一部を示し、将来展望について考察を行う。